「怠け者になりなさい。」水木しげるさんが残した言葉『幸せになるための七カ条』が深い。

水木しげる
水木しげる

2015年11月30日、93歳で急逝された漫画家の水木しげるさん。
独特な言動で出会う人を幸な気分に導いてきました。

そんな水木さんが、著書『水木サンの幸福論』のなかで、
「何十年にもわたって世界中の幸福な人、不幸な人を観察してきた体験から見つけ出した、幸せになるための知恵」
を七か条にまとめて後世に伝授しておりました。

太平洋戦争を体験し、ニューギニア戦線・ラバウルで爆撃を受けて左腕を失った水木しげるさん。
死に直面したことで初めて、幸せについて深く考えるきっかけとなったようです。

後世に残すよう、長年考えぬいた言葉。
水木しげるさんがご自身で導き出された結論が以下の7箇条でした…

幸福の七カ条

第一条
成功や栄誉や勝ち負けを目的に、ことを行ってはいけない。

第二条
しないではいられないことをし続けなさい。

第三条
他人との比較ではない、あくまで自分の楽しさを追及すべし。

第四条
好きの力を信じる。

第五条
才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ。

第六条
怠け者になりなさい。

第七条
目に見えない世界を信じる。

それでは、1つ1つ読みといていこう。

第一条「成功や栄誉や勝ち負けを目的に、ことを行ってはならない。」

水木さんはいう。
世界中の神話宗教民話などを調べると、地獄のありさまはそれぞれに違っている。
しかし、天国のほうは似たり寄ったり。
清らかな河が流れ、薄物をまとった美女がいて、おいしそうな食事があふれている。
おや、環境が悪くなったことに目を瞑れば、不況の現代日本こそまさに天国じゃないか!

それなのに現代には悲壮な顔をして歩いているひとが多い。
それは成功や栄誉という亡霊に憑り付かれているからではないか。
成功なんて時の運、成功しなくても全然OK! 成功しなくても楽しめることに熱中しよう、と。

それでは、「成功しなくても楽しめること」は具体的にはどんなものなのだろうか?

第二条「しないでいられないことをし続けなさい。」

それは、「しないではいられないこと」だと水木さんはいう。
打ち込めるものを真剣に探すと案外見つからなかったりする。
そうではなく、ただ好奇心を大切にし、何か好奇心がわき起こったら、そのことに熱中してみる。
そうすれば、「しないではいられないこと」が見つかってくる。
それでも見つからないなら、子供の頃に戻ってみるといい。
子供の頃は、だれもが好きなことに没頭して生きていたはず。

その頃の気持ちを取り戻そう、と。

第三条「他人との比較ではない、あくまで自分の楽しさを追及すべし。」

それでは、その「しないではいられないこと」とは、社会的に立派な行為であるべきだろうか?
ひとに認めてもらえるよう頑張るべきなのだろうか?

そうではない、と水木さんは仰る。

自分の好きなことに専念するためなら、世間の常識なんて捨ててしまおう。

奇人変人になってもいい。

いや、むしろ、奇人変人になるべきだ。
その証拠に、世界の奇人変人には幸せそうなひとが多いではないか。

だれが何といおうとわがままに自分の幸福を追求する。
それでこそ本当に幸せになれるというものだ、と。

第四条「好きの力を信じる。」

孔子曰く「之を知る者は、之を好む者に如かず。之を好む者は、之を楽しむ者に如かず」。
水木さんの意見も、どうやら二千数百年前の聖賢と同じようだ。

水木さんは若くして漫画道に入り、その道を歩むこと60年。
ついに歩き通した。勲章なんてものをもらったことより、こっちのほうがよほど幸せなことだ、とかれはいう。
さて、それでは水木さんは好きなことに専念すれば、かならず成功できるといっているのだろうか?

第五条「才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ。」

そうではないようである。

戦時中は遥かな南方の戦場を、戦後は過酷な漫画業界を生き抜いてきた、かれの価値観はシビアだ。
「努力は人を裏切る」。

努力したって成功するなんて保証は何もない。
むしろ失敗する可能性のほうがはるかに高い。

それなら、努力は無意味なのか? 
そうではない。
本当に自分が好きなこと、「しないではいられないこと」を見つけ出したのなら、夢中になってその道を歩むことじたいが楽しいはず。
努力そのものが喜びに満ちている。

努力は素晴らしい!

第六条「怠け者になりなさい。」

と思ったら、そうでもないと水木さんはいいだした。

いくら自分の好きなことを自分の好きなようにやっていても、努力しなければ食えないという厳しい現実がある。
そして、努力してもなかなか報われるものじゃない。

だから、たまには怠けないとやっていられない。

もちろん、若い頃は必死に努力することが必要。
しかし、中年を過ぎたら怠けることを覚えるべき。

水木さんの「怠け道」の理想は、つげ義春と猫だそうな。
しかし、猫もつげも天才だから、なかなか追いつけないのだとか。

第七条「目に見えない世界を信じる。」

水木さんは世界屈指の妖怪の専門家である。
あの京極夏彦が手放しでリスペクトしていることを考えれば、その識見が知れるというものだろう。

「目に見えない世界を信じなさい」

と、この専門家はいう。
こう書くと、怪しげな宗教の勧誘のようだが、そうではない。
そうではなくて、この世には物質的な価値観ではとらえきれないものがあり、それこそがひとの心を豊かにしてくれるということだ。

名作『星の王子さま』の有名なセリフにもありましたね。

「じゃあ、秘密を教えるよ。とても簡単なことだ。ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。
本当に大切なことは、目には見えない。
君のバラをかけがえのないものにしたのは、君がバラのために費やした時間だったんだ。」

引用:サン・テグジュペリ『星の王子さま』

共感できる人、できない人、様々な意見があるかもしれません。

それでも大正時代に生まれ、戦争を経験し長い人生を駆け抜けてきた。
そして最後まで好きなことを道として歩み続けた水木さん。

そんな人生の先輩からの貴重なアドバイスとして、心の片隅にとどめておきたい、そんな七か条です。

本当に長い間お疲れ様でした。
ご冥福をお祈り申し上げます。

▼参考書籍

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